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  アサギマダラと紫外線 (2009)

風が見えるか? アサギマダラ 

今でも 「アサギマダラは風に飛ばされて生きている」 と思っています。マーキングの仲間に入れてもらった頃、何かの機会にそうつぶやいたら 「あんたは夢が無いなあ、アサギマダラは渡り鳥のように渡りのルートを通って、目的地へと力強く飛ぶんですよ」 と、先輩にたしなめられたことがありました。あれから十数年経ちましたがその思いは今も変わりません。

先日、病院の待合室の本棚に「風を見た少年」(C.W.ニコル)という文庫本を見つけ、一気に読んでしまいました。彼が初めて日本語で書いた少年向の空想小説なのですが「風を見た」という発想が面白いと思いました。

「空を飛ぶ生き物には風が見える。風が見えるから空を飛べるんだ」 というのです。

アサギマダラには風は見えないんでしょうか。もし見えるとしたらアサギマダラにとって都合の良い風を見つけて、その風に乗って (飛ばされて) 旅をすることが出来るのですから、非常に有利な生存条件となるでしょう。

人間には風そのものは見えません。しかし肌で感じることは出来るし、童謡「風」に唄われているように、風の仕業を見ることも出来ます。上空の雲の流れから風向や風速なども推測出来ます。グライダーやパラグライダーに乗る人は、風を読んで上昇気流を見つけるそうです。しかし、風は無色透明な空気の流れなので、人間が見ることは出来ないでしょう。


誰(だれ)が風を 見たでしょう
僕(ぼく)もあなたも 見やしない
けれど木(こ)の葉を 顫(ふる)わせて
風は通りぬけてゆく

誰が風を 見たでしょう
あなたも僕も 見やしない
けれど樹立(こだち)が 頭をさげて
風は通りすぎてゆく

・・・・・(クリスティナ=ロセッティ詩・西條八十訳詞・草川信作曲)

 なにかヒントになる記載はないかと思って 「チョウはなぜ飛ぶか」(日高敏隆著) を読み返してみました。「昆虫には紫外線が見えることがわかっている」 とありました。多分アサギマダラにも紫外線が見えるのです。紫外線が見えると風景はどう変わるのでしょうか。そのあたりに風が見える秘密がありそうです。

 可視光線のうち散乱光は2割程度であるのに対し、紫外線は総量のうちおよそ6割が散乱光なのだそうです。つまり可視光線の内の波長が短いものほど散乱が激しいということですから、紫外線が見える動物が見る空の色は 「紫外線色」 ということになるのでしょうか。

 アサギマダラが空路を飛ぶときの高さはどれぐらいなのでしょうか。古い 「アサギマダラ情報」 を見ておりましたら、地上10mぐらいではないかという記載がありました。蜜源の花や食草を探したり、雌を探して飛ぶときはもっと低いこともありそうですが、長距離を飛ぶ時にはもう少し高いかも知れませんね。地表近くの風は構築物や樹木などの地上の突起物の影響を受けて様々に変化します。室戸岬測候所の風向風速計は地上50mのコンクリートの塔の上に設置してありました。都市部にはもっと高いビルディングもあります。地上に近い風はグネグネ曲がったり、上がったり下がったりしますので鉄道に例えたらさしずめローカル線ということになり、時間もかかり体力も使うので長距離を飛ぶのには向いていません。高空にはもっと早い真っ直ぐな風があり、こちらはさしずめ新幹線というところでしょうか。長距離を飛ぶなら高空が良いでしょう。

しかし一方高すぎると気温が下がるので限界がありそうです。 私が住んでいる京都市の平野部には9月下旬から10月中旬にかけてアサギマダラが姿を現します。10月中旬の京都気象台の平均気温は昨年18.7度 (日最高24.4度・日最低14.1度) でした。この気温は高度が1000m増すと6度から10度ぐらい下がりますので暖かい日でないと1000mの高度を飛ぶのは難しくなりそうです。その日の天候と気温によりアサギマダラの飛べる高度は変わるものと思われます。

長距離を飛んだアサギマダラは、きっと新幹線並みの上空の風に乗って飛行したに違いありません。上昇気流が見えたら。上空の風が見えたら。アサギマダラは安心して旅立てることでしょう。

私は紫外線が見えたら風も見えるのではないかと思っています。大気中には人間の目には見えない浮遊微粒子 (エーロゾル) が沢山あって、紫外線を激しく反射・散乱しております。エーロゾルは地表に近いほど濃度が高く、風の強さによってムラが出来るので、砂漠の砂塵のように動いてゆくのが分かるでしょう。また、地上で温められた空気はエーロゾルを多く含むので、円柱となって立ち昇る上昇気流の姿が見えるに違いありません。上昇気流が見えて、順風が吹いているのが分かれば、アサギマダラは風に身をゆだねて、余分な体力は使わずに長距離を飛ぶ (飛ばされる) ことが出来るのではないでしょうか。


エーロゾルは人間の目にも見えることがあります。光害で話題になっているサーチライトの光束が見えるのは、空中のエーロゾルなどに光が散乱されているからであり、また、空気の澄んだ高原の星空でも、懐中電灯の光を絞るとエーロゾルで散乱された光束が出来るので、それで指し示すと、周りの人にも星座の位置がよく分かります。

気象庁のホームページでは、全国約850ケ所のアメダスポイントの一時間毎の風向風速等の観測値を見ることが出来ますが、必ずしも天気図と一致はしないようです。また、31ケ所の観測ポイント (ウインドブロファイラ) の上空1000mごとの風向・風速が公開されておりますが、高度によって随分違うのに驚かされます。

人間には見えない紫外線ですが、鳥類・爬虫類・魚類や昆虫には見えるという記載もあります。昼間に渡るタカやユリカモメなどが鳥柱を作るのを見たことがありますが、ひょっとすると紫外線で上昇気流を見つけているのかも知れません。

ゆったりと空中を飛んでいるアサギマダラは、復元力があるのではないかと思うほど安定しているように見えます。

(2009.02.26)