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*** アマツバメを天に返した話(2005年4月)

猛吹雪で凍死寸前のアマツバメを拾いました。

アマツバメのたくましい生命力と美しさには驚きます。

三日ぶりに晴れた朝の大日岳

2005.4.23 プロローグ

4月21日から4日間を立山・室堂平の雷鳥荘をベースにして雪の春山を楽しんでまいりました。と言っても、最初の2日間は猛吹雪で文字どおり缶詰、3日目は立山頂上直下の一ノ越からクロヨンダム湖まで滑りました。

 21日と22日は富山県地方は春の嵐で大荒れに荒れ、山岳地帯は猛吹雪となって4月17日に開通したばかりの高原バス道路(美女平→室堂)にも多いところでは3mもの積雪があって道路閉鎖になってしまいました。富山湾沖に停滞した小さな低気圧が原因で、海上強風警報が出され、テレビの天気図では富山県だけが傘マークという局地的な異常気象だったようです。

さて、渡り鳥たちにとってこういう気象が一番危ないと聞いておりましたが、猛吹雪の中でアマツバメを拾いました。そのアマツバメは翼を十字形に開いたまま凍りついてしまったかのように、雷鳥平の凍った雪面をハラリ、ハラリとひっくり返されながら強風に流されて手元までやってきました。羽には氷も付着しておりましたが、まだ生きているようなので取りあえずリックの中に回収し、宿の雷鳥荘に連れて帰りました。

アマツバメ

2005.4.21 . アマツバメ 

アマツバメは体長20cm余り、翼開長は約43cm。夏鳥として渡来し、全国の海岸から高山までの崖地に営巣する。同じ仲間のハリオアマツバメには及ばないが、鳥の中ではもっとも早く飛び、時速240kmほどといわれている。
高山で頭上を飛ぶ時には「プシュッ」という羽音が聞かれ、写真に写すのは至難の業である。

2005.4.21 目を閉じてうずくまるアマツバメ 

主人の志鷹さんに応援を求めると、早速自然保護センターへ電話してくれましたが電話は出ません。志鷹さんは「雪面にたくさん鳥が落ちているのを何回も見たことがある」と話しておられましたが、こういう局地的な春の嵐には多くの鳥が命を落としているのかも知れません。専門家のアドバイスが得られないことが判ったので、三宅先生から教えていただいた救命法を思い出しながら、あれこれやってみることにしました。

 まず、凍死寸前の状態と思われたので、急激に温めるのは良くないと思い、木綿の小物袋に入れて、自分のセーターに包んで12℃前後の室内に放置することから始めました。
1時間ほどして取り出してみると、手のひらに体温を感じ、目も開いてくれました。これまで体験してきたどの野鳥とも違い、手のひらの中でさも心地よさそうにじっとして、あたりを眺め回しておりました。その様子には人間に対する恐れとか不信は全く感じられなくて、手のひらを開いても飛び立つ気配はありません。手のひらの中で小さく震えており、人間で云うと「低体温症」状態で「ブルガタ症候群」と呼ばれる「震えることにより体温をあげる生理現象」だったようです。間もなく3回脱糞しましたが、ほとんど透明な液体で空腹状態であることが想像できました。餌が必要なのです。

2005.4.21 だらりと翼を垂れるアマツバメ 

再び主人の志鷹さんに「どこかに虫がいないだろうか・・・」と相談したところ、従業員全員に指示して探してくれましたが、一匹の虫さえ見つかりませんでした。地獄谷がすぐ近くで、しょっちゅう硫黄の匂いが流れてくるこの宿は、虫たちにとっては棲みにくい建物だったのかも知れません。生きた虫は手に入りそうには無いのでタマゴを茹でてもらい、コーヒー用の生クリームで溶いて割り箸の片面につけて食わせてみました。嫌がってなかなかくちばしを開いてくれませんが、アマツバメは目の後まで裂けた大きな口なので、成功すると簡単に大量に口中に給餌できました。飲み込んだのを確認したら再び小物袋に入ってもらってセーターの布団でお休みです。これを2時間おきに繰り返しましたが夕方になっても飛べそうなほどには元気さが見られませんでした。

2005.4.21 この世のものとも思えないほどに美しい目 

面白いことに袋の中では糞をしないで、手のひらに止まらせている間に2〜3回脱糞するので、健康状態がなんとなく分かるように思えました。水は飲ませていないのに相変わらず糞は液状でしたが、徐々に白くなり、間もなく黄色味さえ帯びてきました。卵黄の給餌は成功だったようです。指に止まらせたまま腕を上下すると、アマツバメはようやく羽を広げるようになりましたが、やはり飛びません。空中に放り上げると羽ばたきはするのですが、すぐに畳の上に着陸です。これで第一日目は終わりました。


2005.4.21 アマツバメは手のひらが大好き 

2日目の朝は猛吹雪で明けました。玄関の扉は1mも雪で埋まっております。外に出るのは諦めてアマツバメの看病とリハビリに専念することにしました。しかし、取り出すまではアマツバメがまだ生きているのかとても心配でした。
そおっとセーターの中に手を差し入れると、生き物の温かみが感じられました。取り出してみると震えは止まっており、生気が戻っているようでした。糞は緑色となり、少し飛べるようになりましたが、ガラス窓や壁や襖に当たるのが精一杯で、時速240kmで大空を駆けるアマツバメの飛びようではありません。同じ餌ばかり連続して与えると病気になって死ぬことがあるという三宅先生の話を思い出しましたが、他に食わせるものが無いので卵黄を与え続けました。一度だけ自分から餌をつついて食べたことがありましたが、相変わらず割り箸での給餌です。


2005.4.22 肩まで登るとそこに落ち着くアマツバメ

喫茶室では従業員の皆さんに可愛がってもらいました。まるで手乗りのインコのように衣服を這い上がり、肩まで来るとおとなしくして辺りを見まわしているのです。「どうして・・・」、「どうして・・・」と質問攻めに合いましたが、私としても始めての経験なので答えようがありません。但し、この時ほど自分が京都野鳥の会の会員であることが誇りに思えた事はありませんでした。喫茶室が広いので飛ばしてみましたが、すぐに下降線を描いて窓ガラスに当たって落ちました。怪我をさせてはいけないので飛行訓練は中止しました。後になって気がついたのですが、アマツバメには逃げようという気はなかったようで、広い空のもとでしか飛びたいという気力は起こらなかったのかも知れません。


2005.4.23 飛ぶ気みなぎるアマツバメ

3日目の朝がやってきました。天気予報よりも早く回復したらしく、快晴で強い風が吹いておりました。周囲の雪山は朝日に染まってピンク色に輝き始めました。早朝5時過ぎです。宿の主人が「まだ来ていません」と言っていたイワツバメが3羽、強風の中を舞っています。8時ごろ放鳥したいとお知らせしたら、喫茶室を預かる中川さんが立ち会って下さることになりました。怪我をしたムササビを助けて山に返したことがあるという動物好きなご婦人です。
いよいよ時間です。カメラとビデオを構えた上でアマツバメを中川さんに渡しました。するとどうでしょう、「飛べるかな」と心配していたのに、飛び立つ前から昨日までの無気力なおとなしいアマツバメとは違っていました。飛ぶ気が満ち溢れているのです。写真で見ると翼角が尖って見えました。目が輝いておりました。衣服を肩まで登る勢いが違いました。ガスが流れる青空を見、マイナス何度かの冷たい風を感じた途端に野生と元気を取り戻したようです。

2005.4.23 みるみる天に昇るアマツバメ

ビデオカメラを構える弟に「飛ぶゾッ」と叫んだのですが、間に合いませんでした。弧を描いて上昇を続け、5秒後には遥か高空のガスの彼方に見えなくなりました。なんという力強さでしょう。なんというスピードでしょう。これが私の心に棲み続けていたアマツバメの姿でした。野生の強さと美しさでした。思わず「一度ぐらい戻って来い・・・」と空に向かって怒鳴ってしまいましたが、聞こえたでしょうか。


2005.4.23 肉眼では見えなかったアマツバメ

アマツバメさん有難う。吹雪の日の2日間の缶詰生活が、とても楽しく充実して過ごせました。
天まで昇ったら神様に報告するんだぞ。人間界も捨てたものじゃないと。
いつかまたな・・・・・・